膝の痛みについて

膝の痛みの原因について大まかに分類すると
1)変形性膝関節症
2)外傷性 靱帯損傷・骨折・半月板損傷・周囲筋損傷
5)その他、関節炎・感染性疾患・慢性関節リウマチ・滑液包炎、腫瘍など
当医院に来ていただく患者さんで一番多いのは、加齢に関係する変形性膝関節症です。
今回はその疾患について当医院の治療方針を書かせていただきます。
変形性というように加齢による関節の老化、つまり、関節軟骨の脆弱化・骨の変化・周囲筋の弱化等の複合した要因に生活様式も加わって、膝関節の歩行時痛・安生時痛をもたらす疾患です。
ただ、膝のレントゲンによる変化の所見と症状は、ダイレクトには結びついていないと考えます。
診察による経験上、レントゲン像で変化が少ない人でも凄く痛がる人もいれば、変化が強くても軽い痛みで歩行している人もいます。
つまりレントゲン像の「変形性膝関節」と症状の「痛」は分けて考えた方が良いと思います。
膝の疾患で一番困ることは、歩行時痛であり、それを主訴に来院される方がほとんどです。
健康寿命という言葉がありますが、整形外科的には「立って歩ける」を維持する事がこの健康寿命を維持し延ばすのに重要な要因としています。
そのため、当院の基本治療方針は、「痛くても歩ける状態を保存的に維持する事」です。
当然この「痛くても」は「日常生活では無理をしなければあまり感じない程度の痛み」と言うことです。
又、「保存的」とは、「手術しないで」という事です。
しかし、人工関節置換術等の手術療法を否定しているわけでは無く、変形が強く疼痛も強く歩くことがしにくい人には積極的に病院を紹介しています。
重度の変形でも歩けるならそれを更に歩行しやすいように治療し指導することで、治療以前より遙かに歩きやすい状態になっている人々を、開院後の30年間の経験として多く診てきていることからです。
この保存療法の順位は
1)周囲筋のトレーニング(筋力増強・筋の柔軟)
2)歩行姿勢 膝への体重負荷とノルディクウオーキング等の杖使用の勧め
3)筋トレ後の軟膏剤使用等の外用薬処方
4)ヒアルロン酸の関節内注射
5)鎮痛剤の処方
です。
2の歩行姿勢についてですが、以前より膝の歩行時痛が有るのに、突然歩行時痛が来たと訴え来院する患者さんが多い事です。
実際には、歩行時痛のある膝を自然に自覚しないで庇って歩く行為をし続け、筋肉が弱くなったりしてバランスが悪くなり庇いきれ無くなった事で、膝の歩行時痛を強く感じるようなったのが実情です。
膝を庇って歩行していたため、膝がまっすぐ伸びなくなり(伸展拘縮)、伸ばそうと押しても痛くて真っ直ぐにならない事から、以前より膝痛があったことに気付く患者さんを多く診ます。
膝を完全には伸ばさない曲がった状態で歩き続けると、大腿四頭筋の筋力も落ち、その状態では膝関節も不安定なため、関節水腫(膝の水)も生じやすくなるようです。
そのため、膝をしっかり伸ばす為に大腿四頭筋を意識しながら歩き、悪い癖を無くすように指導しています。
この事が、ヒアルロン酸の注射と消炎鎮痛剤の優先順番に関連しています。
膝関節が完全には伸びなくなった人は、膝前部を押して膝を伸ばすストレッチ運動を繰り返ししないと、膝後部の筋拘縮により歩行時に膝を曲げて歩くことになるのですが、この伸ばす運動は自分でしても痛がる人が多いです。
その時、ヒアルロン酸の関節内注射が非常に役に立ちます。ヒアルロン酸を打つことにより、よりスムースにその伸展運動を繰り返し(1日3・4回)しやすくなります。
消炎鎮痛剤を服用するだけでも、膝歩行時痛はある程度軽減できますが、膝伸展不良の軽減には直接結び着かず、大腿四頭筋の筋力も低下するため、保存療法も困難になる方も多いと考えています。
ただ、特に痛い時には速やかに服用し、歩行できる状態を維持するように指導させていただいています。
腰痛症について

腰の痛みにはいろいろな原因が考えられます。
先ず大きく分けると
1)骨折や骨の損傷や老化でおこるもの
椎体変形による腰部脊柱管狭窄症
骨粗鬆症による椎体の圧迫骨折とそれに続く円脊変形
脊椎分離症
椎間関節の変形性関節症
2)椎間板の老化や損傷で起こるもの
椎体の骨棘形成
椎間板ヘルニア
脊椎すべり症
3)筋肉や靱帯の老化・損傷で起こるもの
いわゆる「ぎっくり腰」
慢性腰痛症
4)その他、感染・内臓関連痛・血管変性・腫瘍・心因性など
整形外科は上記ような多種の腰部痛の原因をいかに診察し診断し、適切な治療するか、又は、適切な科に紹介するかを診る科です。
上記の分類の中で一番多いのは、3番の腰部周囲の筋肉・靱帯の老化と損傷です。
この症状は、腰の動作時痛を主症状としていることが多いですが、当然例外もあります。
筋肉と靱帯は単純レントゲン撮影では明確には写らない為、レントゲン撮影はこのタイプの腰痛症では、診断手段としては順位が低いという意見があります。
これに対しては当院では二つの対策をしており、診断確定の向上を目指しています。
①デジタルレントゲンにより撮影情報の鮮明化
②立位でのレントゲン撮影
①は最近の病院ではほぼ一般的になっているが、当院では院長の診察場所から1mの近さにレントゲンの操作盤及びその専用ディスプレーがあるため、撮影毎に画像を確認し、撮影画像のコントラスト変更を直接指示出来るため、より明確な所見を得ていると自負しています。
②はまだ一般的では無く、臥位(レントゲン台上での横向け)撮影をしている施設が多いようです。
その理由として、腰部痛時の立位姿勢保持が困難なことも有りますが、当院ではそれを可能にするため独自の保持支柱を制作して対応しています。
その為、腰痛時でも立位での撮影が可能であり、臥位での撮影結果とは雲泥の差があると考えています。
なぜなら、レントゲン写真を「読む」為には箇々の脊椎(背骨)の骨折や変形だけでは無く、その連続性を見ることが重要ですが、横になった姿勢(臥位)では、脊椎周囲筋の緊張状態が、疼痛時と違うため連続性のちょっとした違いを区別しにくいと思います。
簡単に言うと、「臥位では痛い時の状態が再現されにくい」と考えています。
(「腰椎レントゲン・立位」でネット検索をしていただくとより確実に解ると思います)
明かな疾患のある腰部痛では無い「いわゆる腰部痛の治療方針」としては
1)立位及び座位の姿勢の修正指導
2)腰部及び股関節の柔軟指導
3)外用薬の処方
4)物療療法
5)腰部固定バンドの処方(腹筋使用強化のため)
6)鎮痛剤の処方
7)リリカの処方(神経痛を伴う場合)
8)サインバルタの処方(慢性腰痛症)
いわゆる腰痛症の場合、筋性痛が多いため1及び2が最も効果があると経験上思っています。
良い姿勢を取る際重要なのが「腹筋を意識する事(腹筋強化では無い)」であり、それだけでも腰痛で歩きにくかった人が直ぐに歩けるようになる事もしばしば経験します。
2は強い腰痛を生じないようにする「体の手入れ」と考えています。
3番以降は患者さんの腰部痛の状態でそれぞれ違ってくるので、来院していただいて診察させてもらってからの事になります。